12/14 ソクラテスの嫁 夏目漱石の嫁

ノーベル賞受賞者の大隅良典さんの妻・萬里子さんは、
同じ分野の研究者でもあり、公私共に、大隅さんを支えたという。
「成功の陰には良妻あり」という話、なのかな。
ただ、偉大な男の陰には、常に良き妻がいる、わけではない。
哲学者・ソクラテスの妻、クサンチッペは歴史に残る悪妻として知られている。
ソクラテスは一冊も著作を残していないので、
悪妻に描いたのは周りの人間なのだけど、
とにかく、人類史に輝く哲人・ソクラテスの価値を理解しない、
悪妻だったらしい。

夏目漱石の妻も悪妻という話がある。
もともと上流階級のお嬢様で家事が苦手な上に、ヒステリック。
漱石の周りにいた弟子たちからは評判が悪く、
漱石の没後10年に、漱石との思い出を本として出版した折には、
自分ばかり良く書いていると、
有識者や門下生から「悪妻」呼ばわりされたという。

ただ、日本文学の未来を一身に背負っていた漱石は神経症で、
妻や子どもによく手をあげる、DV夫だった。
現代なら、世間から相当なバッシングを受けていたことだろう。
(漱石の時代にSNSがなくて本当に良かった・・・)
漱石の娘は、子どもの頃、何度も
「あんなに怖いなら、そしてあんなにお母様をひどい目にあわせるなら、
いっそお父様なんか死んでしまった方が良い」
と思ったという。
そして、
「鏡子(漱石の妻)だから、あの漱石とやってこれたと
 褒めてあげたいほどのことがたくさんあった」とも。

解剖学者の養老先生は、
宗教が明らかな形で生活に入ってこない日本では、
夫婦関係が、宗教の役割をしていると、どこかで言っていた。
つまり、夫婦生活という不条理な毎日の中で、
人は、忍耐を学び、我慢を学び、折り合いをつけることを学んでいくと。
夫婦関係によって日本人は、人間としての成長を遂げているのだ、と。
悪妻と毎日を暮らすソクラテスは、
悪妻との生活の中で、様々な「哲学」を見出していったのかもしれない。

ただ、ソクラテスは歴史に残る哲学者ではあったが、
稼ぎとなる定職を持たず、妻の実家の財産で暮らす、いわば、ヒモだった。
悪妻・クサンチッペにしても、悪妻・夏目鏡子にしても、
ヒモやDV夫に愛想を尽かさずに、
最後まで寄り添ったという意味では、「良妻」だった。
二人とも「ヒステリック持ち」だったと歴史は伝えるが、
100年後も2000年後も名前の残る変人と同じ屋根の下で暮らして、
気がおかしくならない方がおかしい。
悪妻か良妻かは、本やテレビ越しには、わからない。
悪妻か良妻か、「悪夫」か「良夫」か、
本当のところは、当人どうしにしか、わからない。
夫婦関係は、哲学史や文学史に関係ない、
どこまでいっても、パーソナルなものだ。

 

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