6/20 「俺、ノーベル賞取るから」

大口を叩く人が好きだ。
大口叩いたり、大風呂敷広げる人は見ていて楽しい。
大学時代、短期バイトで一緒になった同い年の子もそういう一人で、
会って3日目に、「俺、ノーベル賞を取るから」と言ってきた。
慶応が東大か東京理大か忘れたが、
とりあえず、いい大学の理系の学生だったことを覚えている。

僕らが働いていたのは、百貨店に入っているチョコレート屋さんのバイトで、
バレンタイン商戦中ということもあり、他より時給がずば抜けてよかった。
予想以上に多くの応募があったのだろう、
チョコレートを売るだけの仕事なのに、
東大と慶応、早稲田大学の学生ばかりだった。
違う事業させた方がいいんじゃないかと思った。
しかもチョコレートを売る女性の売り子さんがメインの募集だったので、

僕ら男どもは、常時、裏の倉庫に待機して、
1時間に1回、売り場
に立ってる女性スタッフに、
「在庫、大丈夫ですか?」と聞くだけの仕事だった。
しかも、その10回に8回は「大丈夫です」と言われるので、
僕はほとんどの勤務時間を、倉庫の中で本を読んだり、
百貨店の非常階段で不倫している男女を覗いたりして過ごしていた。

「俺、ノーベル賞を取るから」と言った彼は、僕が
非常階段でいちゃついている男女を見上げながら、
「ホラ、見て、あの人達。不倫かなぁ。不倫だよねぇ。

 男の方、禿げてるもんねぇ」と言っても全然興味を示さず、
将棋か何かの携帯ゲームに没頭していた。

身近に、大企業で働く人がいなかった僕は生まれて初めて、
お昼休みに、広い社食に行き、「社員割引」を使ってお昼ご飯を食べて、

世の中には、「福利厚生」というものがあるということを知ったのだけれど、
彼は、バイト期間中、一回も昼食を食べなかった。
べつに大して太ってるわけでもないのに、
「ダイエットしてるから」と言っては、
倉庫にある在庫のチョコレートの箱を勝手に開けてはずっと食べていた。
昼食を抜いてチョコレートを食べる方が太るんじゃないかと思ったし、
在庫の数が合わないと、後で店長に疑われるんじゃないかと彼に言ったが、
両方とも、「そんなことはない」ということだった。

彼がその時当たり前のように説明していた「倉庫のチョコレートを食べてもいい理由」は
よくわからなかったし、

その変な自信はどこから来るんだと思ったが、
是非、今後も、その無駄な自信を失わず、
ノーベル賞に向けて、突き進んでほしいと思った。

そして、同時に、このチョコレート店の店長のことを想像して、
勉強できるやつをバイトに雇っても、
ろくなことはねぇなと思った。

 

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