WBC雑記

WBCが盛り上がっている。
スーパースター・大谷を擁する「大谷ジャパン」の活躍が連日、メディアを賑わせているが、野球を見ていると、つくづく、野球というのは「限りなくチームスポーツに近い個人スポーツ」なのだと思わされる。
サッカーやバスケットでは、代表チームがどんな戦い方をして相手に打ち勝つかという、戦術や連携の話を、試合前からメディアやファンは延々としているが、野球ではそんな話をする必要がない。
代表チームの戦術は、代表メンバーの人選が終わった時点でほぼ決まっているし、代表合宿は、それぞれの選手がコンディションを整えるためだけにある。
連携といえば、食事会をしてコミュニケーションをスムーズにしておくくらいのものである。
サッカーやバスケットボール、ラグビーのように、それぞれの「型」が取っ組み合う形ではなく、個々のバッターがピッチャーと一人ずつ対峙する形をとる野球は、チームスポーツといいながら、それぞれの選手が個々人で頑張るしかない「個人型チームスポーツ」である。
その意味では、サッカーやラグビーよりも、駅伝に近いといえるのかもしれない。

今回の日本代表には、大谷、ダルビッシュを始め、海外でプレーする選手も多数いるが、野球ほど海外挑戦が楽なスポーツもないように思う。
サッカーやバスケットボールのような「連携型」のチームスポーツでは、チームの一部として機能するプレーをする必要があるため、チームの戦術と個人のプレーの性質の「合う・合わない」が明確に出てしまう。
加えて、個人のプレーの成功・失敗が他の選手との連動によって決まってくるため、チーム内での信頼がものをいうことが多い。
もしチームから信頼されていなければ、最悪、「ボールが回ってこない」ということさえある。
子どもの頃から、その街で一番サッカーがうまく、チームの中心でい続けた少年が、海外挑戦の先に、仲間からパスさえもらえず実力を発揮できないというのは、どれほど無念な挑戦だろう。
それに対し、野球は、野手であれば、一試合に三回は必ず、打席のチャンスが与えられる。
ピッチャーなら、言わずもがな、試合の中心としてマウンドに立てる。
たとえ、チーム内で孤立しようが、チームメイトから食事に誘われなかろうが関係ない。
野球には、連携やコミュニケーションと関係なく、純粋に野球の実力を発揮できる場が用意されている。
その意味で、野球は、どのスポーツよりも「機会の平等」が徹底されているスポーツともいえる。

今回の日本代表で注目を集めているのが、初の国外代表選手となったヌートバーだが、このこと自体が、野球の国際化の遅れを物語っている。
サッカーの代表チームに帰化選手がいることは特に珍しいことではないし、ラグビーの代表には、数年間日本でプレーしただけで日本語もおぼつかない外国人が多数、名を連ねている。
これまで、野球の日本代表が、元高校球児という、同じ環境で成長した選手だけを集めて構成されていたという事実が、野球のドメスティックさを語る象徴みたいなものだった。
そのドメスティックさは、日本だけでなく、アメリカも同様で、かつて、鳴り物入りで日本球界に入団したメジャーリーガーのホーナーは、日本で大した成績を残せず、すごすごとアメリカに戻った際、「海の向こうに、ベースボールに似たスポーツがあった」と、日本の野球を皮肉った迷言を残したが、世界に野球というスポーツは自国にしかないかのような、まったく世界の方を向いていないアメリカのその姿勢は、隙あらば世界市場を獲ろうとしている他のスポーツからすると、理解不能であろう。
今回も、WBCは、MLBとMLBの選手会主催によるアメリカ中心の大会であることは変わりなく、賞金の配分や大会日程、組み合わせなど、すべてがアメリカの密室で決められた。
キューバとは政治的に色々あるからアメリカとは別のプールにしようとか、アメリカだけは移動の負担が少ないように全試合アメリカで戦わせることにしようとか、アメリカと日本の試合は一番盛り上がるだろうから、両方のチームがどんな勝ち上がり方をしても準決勝の組み合わせは「アメリカ対日本」になるように先に決めておこうとか(※大会始まった後で変更)、「機会の平等」が徹底されているスポーツとは思えない不平等さを露呈している大会である。
こんなことでは、永遠に野球はドメスティックなスポーツであり続ける。
ただでさえ、日本やアメリカで野球人口は減っているのだから、そろそろ本気で世界の方を向いていく必要があるだろう。
今回の大会を機にアメリカには本気になってもらいたいものだが、彼らは優勝したらしたで「やはり、アメリカがNO1だ」というし、負けたら負けたで「でも本気だしてないしな」というだけなので、どうにもならない。
ここは、WBCとメジャーリーグのシーズンでスーパースター・大谷に圧倒した成績を残してもらい、「世界一のリーグは確かにアメリカだけど、世界一の選手は外国人なんですよね」とアメリカに認めさせる以外ないのかもしれない。

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