ヤマト運輸が時間帯お届けを縮小するらしい。
Amazonとの取引が、細かなサービスを圧迫しているとも言われているが、
内情がどうあれ、サービスが後退しても何も問題ない。
日本の宅配便は、便利すぎる。
「小倉昌男 祈りと経営」という本がある。
日本の便利な宅配便の基礎を作ったヤマト運輸の元社長・小倉昌男に関する本なのだが、
それまでの名経営者・小倉昌男を描くのではなく、
小倉と家族・信仰との関係に切り込んでいき、
小学館ノンフィクション大賞を、満場一致で獲得した良著だ。
小倉昌男氏は、国の規制と戦いながら、日本に宅配サービス網を作り上げ、
動物戦争と言われた宅配便サービス競争(クロネコ、カンガルー、ペリカンなどなど)
を勝ち抜いた、名うての経営者だったが、
家庭ではずっと問題を抱えていた。
小さい頃に母親をなくし、その後育ててくれた継母とも死別。
ヤマト運輸の経営で走り回るようになってからは、
妻と娘が長年に渡って衝突し、家庭は修羅場と化していた。
妻はそれによって心の病にかかってしまい、
結果的に、若くして亡くなってしまう。
(後に、娘にも精神疾患があったことが、明らかになる)
小倉昌男氏は、ヤマト運輸を退いた後、
障害者を支援する財団を立ち上げたのだが、
筆者は、小倉が障害者支援に向かっていった経緯を、
家族の問題を交えて、丁寧に浮かび上がらせる。
人には、プライベートの顔とパブリックの顔があり、
パブリックで「成功」している人が、
プライベートで安泰かどうかは、他人にうかがい知ることはできない。
プライベートを犠牲にして社会的に成功している人もいるし、
逆に、プライベートのために社会的成功を諦めた人もいる。
だけど、それらは別物というだけで、「表裏の関係」ではない。
一つを得るために、
もう一つを必ず諦めなければならないわけではなく、
プライベートもパブリックも上手くいっている人は、
世の中に、当然のようにいる。
ただ、この本を読むと、
「宅急便」という、行き届いたサービスを作り上げる裏に、
苦しんだ人が少なからずいたのだということを知る。
それが、「表裏の関係」ではないとしても、
会社としてのパブリックイメージを気にしなければならないばかりに、
プライベートを侵されて苦しんだ人たちがいたのだ。
そういうことを知ると、「宅急便」の時間帯お届けがちょっと縮小されたからといって
どうこう思うことはなくなる。
まぁ、もし、この本を読んでいないとしても、
「12〜14時指定」ができなくなることに対して、どうこう思うことはないのだけど。
だって、日本の宅配便は、すでに便利すぎるのだから。
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