前回のコラムのことで、ホールインワンを調べていたら、
「ホールインワン保険」なるものを知った。
一打目に打ったボールが偶発的にカップの中に吸い込まれてしまうようなことがあると、
ホールインワンのお祝いとして、周りの人に記念品を送らなければいけないので、
その急な物入りのために入る保険が用意されているのだという。
保険に入っていないと、万が一ホールインワンした場合に、
余計な出費を強いられてしまうおそれがある。
ゴルフをしている人は、
ボールをカップに入れたいのだろうか、入れたくないのだろうか。
ともかく、ホールインワンというのは一つのリスクであり、
「保険」というものは、リスクのあるところ、どこにでも顔を出してくる。
最近聞いた保険に「痴漢保険」というのもある。
痴漢の冤罪に巻き込まれないために男性が入っておく保険で、
保険の内容によって、
弁護士が電話対応してくれたり、その場に駆けつけてくれたりするという。
「痴漢現場に居合わせたら、例え自分がやってないことを主張するためにでさえ、
駅長室に入ってはいけない」「入った時点で、アウト」
と言われるくらい、男は、痴漢の冤罪に簡単に巻き込まれる可能性がある。
「万が一の時のために入っておくか」と男性に思わせる魅力が、
「痴漢保険」にはある。
現在の保険を形作ったのはヨーロッパの「海上保険」で、
まだ航海が危険極まりない時代に、
貨物や船舶を失うリスクを減らそうとしたことから始まった。
危険の多い大海原へ、一か八かの賭けに出るのではなく、
できるかぎりのリスクを減らしてから出かける。
未来が予測できない場面が増えれば増えるほど、
保険のカバーする範囲は増えていく。
だが、生きている間、減らしても減らしても、
リスクがゼロになることはない。
どんなに「安全・安心」を推し進める社会でさえ、
未来にはいつもリスクが残る。
その時、保険が助けてくれるのは、
何かがあった際の治療費や入院費であって、
その時、被った痛みや傷や、命ではない。
保険に入っておけば安心かもしれないが、
失ったなにかが返ってくるわけではないのだ。
「痴漢保険」は男にとっては役に立ちそうなものであるが、
実際に、痴漢を犯す男が加入しているという話もきく。
痴漢した男を助けるために、すぐに弁護士が駆けつける。
おいおい。保険が犯罪者を助けて、どうする。
痴漢の問題で、本当にリスクを減らさなければならないのは、
犯罪者でも冤罪に巻き込まれそうな男性でもなく、
被害に合う女性の方。
女性が、男性の何倍も、痴漢のことに気を使わなければならないのだ。
だからといって、女性に、
「女性用の痴漢保険にちゃんと入っとけよ」といは言えない。
痴漢問題は、女性、個々の”リスク管理”問題ではなく、
システムや制度の問題なのだ。
変えるべきは、満員電車という現状。
おかしいのは、男女がぎゅうぎゅう詰めになっているのを当たり前だと思っている感覚。
「保険」は、何かが起こった後の話でしかない。
考えなきゃいけないのは、何かが起こる前の話だろう。
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